時計の針は文字盤を指していた。曲の止まったイヤホンがジリジリと音を立てている。 ストリートピアノを施錠する警備員を襲い、鍵を奪って逃げた少年ももうすぐ歳をとるらしかった。今では誰も覚えていない。鎌倉では人を撃った。ただ高校野球の結果が知りた…

プラスにプラスにしたりマイナスをよりマイナスにすることはあってもそれ以上はお金を使うくらいの意味しかないとタワレコへ向かう足を引き返したり、季節柄の物欲について馳せてみて、あれもこれも手に入れた先に週末の気分が晴れるかといえばそんなことは…

「好きな芸能人は？」と訊かれたときに便宜的な回答としていたタレントが結婚し、思いのほかショックを受けている自分に気づく。 「わけあり」として日中は呆然と過ごしたあとの帰路、近所の中華屋の前で抱き合い……陶酔しているカップルがいたので、俺の部屋…

フリマで14年ほど前のiPod（5世代）の美品を手に入れて以来、当時の思い入れもあって使っているが、ディスプレイに横線が入るようになってしまったのと、イヤホンの接続が不安定なので、自分でディスプレイとイヤホンジャック（ホールドパーツ含む）のパーツ…

ボーナスと給料をもらったばかりだというのに、ファイナンシャルマネージャーから電話が入り「なんですかこれは」と「言ってみればこれは破産ですよ」「それをわかっているのか」と告げられ、クレジットカードの没収と日用品の購入に申請が必要になってしま…

日曜の繁華街に出てみれば、突然自分は叫び出して倒れてしまうんじゃないかという妄想を常に抱いている。職場で集合写真を撮ったところ、一人わずかに離れて外側を向いている自分が映っていて、そういう性根が昔から変わらず、なかなか度し難いなと思う。体…

人生がやり直せるなら？「今の意識のままだとしたらね」「今の意識のままだとしたらよ」そう繰り返すと、女は隣の友人に言った。「学生時代に戻って、勉強をやり直したい。英語とか――」実のところ、今の彼女は年経た自分が若返った姿だったのに、多くの人間…

飲みに行った先で出会った女が「絵を描いている」と言うので、好きな画家を訊ねると「ギーガーです」と言う。 突然連絡が取れなくなる相手は数あるが、刺さるところには刺さるんだろう。 以前、胸焼けしそうな同棲部屋に招いてくれた後輩が知らないうちに婚…

十分に睡眠をとったという根拠を持つようにする。朝日で目を覚ましたら、20分かけて髭を剃る。夜までは何も食べない。飽食の選択肢。 10年以上前に利用していた日雇い労働の事務所からメールが届いていて、故郷の倉庫番の仕事を紹介されている。 街なかにひ…

ジェフベック療法が功を奏し、やや持ち直した。 新しく買った整髪料は使い勝手が良く、毎日ひとつは新しいことに挑戦したいという気持ちになる。 足音は立てるが下品にならないように気をつける。女は体調を崩しやすい。本来であれば自分などこれっぽちも気…

ぼくは時々、他の人にどうして気を紛らわせているのかを訊ねたくなる。でもきっとそれを聞いても参考にはしない。人それぞれストレスがあるんだなということを確認したいだけだ。 この期に及んで自分の特徴のことで批判されることがあって狼狽したが、実際の…

ワンツースリーと送っているが、どれについても返事が遅めで予定が立てにくい。前日にまでこの調子じゃマトモに予約もできなくて困っているが、あなたと私も所詮は誰かの代替品でしかないから仕方がない。いざという時のいざというインスタントはなかなか叶…

バラした機械を組み立てて、またバラして組み立てる。狂った人間たちの前を歩いて、ずいぶん話が合わなくなった友人たちを振り返る。故郷に帰る理由もわざわざ探さなければならない。もう言い訳はしないでくれ。一方、愚かで、取り繕うような謝罪をした夜だ…

正直なところ、想像以上の感動も無く、絶対めんどくさいことを考えてしまうと思っていたが案の定だった。もう映画の話をすることはないだろう。 偶然にもシンゾーと同じコース巡りが3時間ズレていて、ハイアットの4Fで漠然と聴きながら、感動するポイントを…

チラシを撒き散らしたりセールスの電話や突然の訪問、自分が迷惑を人に押し付けているのがわかりきってるような仕事がいくつもあって、マンションのロビーでそれに指摘したそばから「彼らだって仕事なんだから」とたしなめられる。そんなものやめちまえと思…

シベリアン・カートゥルを10年ほどぶりに再確認して熱狂しているその裏では界隈の楽曲選挙が行われており、たぶんきっとここにも好みの音楽があるだろうなと思いつつ、新たにハマって気にしたりするのも労力と時間を使うので無視している、ということも結構…

もしも夜景がきらめくとすれば、アーベインのフィルターを通してようやくといったところで、相変わらずイルミネーションにはロボットのような反応しか返さない。気の利いた嘘も用意しているが、正直なところ、あれがバスかダチョウなのかもわかっていない。…

食事を一日一度にしてから健やかかといえばどうだろうな。残った回数は欲望のままに過ごしてしまう。右か左に指図するのは、調子の良いことを言う練習のようなものだ。車にひかれるために一歩踏み出して、左足に埋め込まれたバールのようなものを思い出す。 …

3階から転げ落ち、したたかに身体を打ち付けたが無事だったその翌日、金を払ってまで、そこから飛び降りさせてくれと言った。 「いいから」 昨晩ならその気持ちを思い出せたかもしれない。今では目覚めて、記憶の片隅を引きずり出したにすぎない。ラブいとい…

読まずに捨てた手紙もあれば、書いたこともある。問題は卑屈になりすぎないことだと思うが……こんなものはおもしろくないと思っていたことが概ね好意的に受け止められているのを見れば、考えずにはいられない。 呪いのようなものは健在で、なんとかしないとマ…

「彼女いるの？」 「好きな子はいます」 「アイドルとか？」 などと冗談半分で言ったところ 「好きな子がたまたまアイドルだっただけです」 と、やぶ蛇をつついたような答えが返ってきた。 似たようなことを訊かれたときに、ややこしいことを言ってしまうの…

ケンタッキー州はアーランガーから発つトラッキングに想いを馳せていたが、セカンドチャンスですよと言われるままにハブザビルしたことに対する一抹の後悔も正直あるのは裏腹でも、届いたらキーワード巡回の習慣がひとつ減って気が楽ではある。昨夜はアラス…

久々の友人たちと会ったところ、ぼくの服装には『期』があると語られるのが気恥ずかしかったので、いっそ次回は全身ビビアンで行ってやろうと画像検索をしてみたが、今のところは何もビビっとこなかった。「#今日の服」と街なかでひとり自撮りをする機会があ…

「○○の知識なら誰にも負けません」とか「所持数なら」など、そういうサブカルチャーなプロフィールを見て「本当かよ」とムキになってしまうことがある。『好きなもの』なんて書かなきゃよかったと思うし、『嫌いなもの』を考えるたび、呪いのような当てつけ…

柄のある服を着なくなってしばらく経つうち、レコード屋に20分滞在するのも苦痛になっていた。背景の女のジャパニーズポエトリーリーディングもなおさらで、駅前の飲食店にいる気分にも似ている。 未踏の近所へ出れば手抜きの一杯で1,200円も取るのが強気で…

オンライン英会話のフリートークにしてもガールズにしても、そもそも話したいことがあるだろうか。ロックギタリストがダサいサングラスをかける理由は？晩ごはんに悩むときは……結局、タクシーにゲイシャを乗せて、何かを食べに行くわけでもなく、帰って出前…

他人の面影にお前を偲ばせることもある。歳をとったな。半永久的の他人。根拠は無いがヤレる気がする。それを想いつつ、定期的にうまく続けて十数年もかかる計算はなかなか参るね。 駐車場つきのレジデンスから飛び出せば、渋滞と吊り輪のどちらにつかまるの…

風邪をひいてしまって、ニラレバと麻婆豆腐でも出前するかというとき「何か作ろうか」という誘いに甘え、横になった身体を起こすと料理ができていた。うどんを玉子で閉じたものだった。 「お金は今度」と言ったのち、多めにつけたキャッシュで返すが、それは…

「千円でいいですよ」 「そんな」 ということで店を出て、浮いたお金の先も思い当たらず帰路につく。 「最近文句ばっかじゃん」 例えば夜行バスとかマクドナルドとかの都合もあるし、挙句帰って出前を取る、みたいな生活を送っている。オレが来るとテレビを…

酔ってても酔ってなくてもロクなことはすべきではない。ほんの寝しまの一時間を悔いることもある。ひとりでも上手に飲める場所が見つかるだろうか。ガブガブと飲めるお酒を作るようになると、家にいても慎重になる。 「どちらから来たんですか？」 挨拶へ正…