クリトルリトルの話 ほか

飲みに行った先で出会った女が「絵を描いている」と言うので、好きな画家を訊ねると「ギーガーです」と言う。

突然連絡が取れなくなる相手は数あるが、刺さるところには刺さるんだろう。

以前、胸焼けしそうな同棲部屋に招いてくれた後輩が知らないうちに婚約していたとかで、そんな様子だったから不思議なことでもないが、かれこれアレコレやるだのやりたいだのといったフワフワとした野望を聞かされていた結果、彼なりにあの田舎で着地したのだなと思う。

結婚を何かしらの終着点だと思い込む自分の浅さを恥じてはいるが、高校生の頃には「気苦労が多そうだからしない」と書いた若気のイタさでも、それからいくらか豊かな人間になったところで、依然どういう気持ちでそれに至ろうとするかがわからないでいる。あるいは今でもじゅうぶんに呪われていて、世の中と折り合いが合わないような発言をしていた男にも女にも知らないうちに子供ができていたり、実際はどうってことないじゃないかと思う。

一週間の半分は家に帰るまで誰の顔も見たくないが、お金を稼がなければならない理由があるとすればそれだろう。

ある程度飲めば生の感覚に敏感になるのがわかる。それ以上は危険だが懐かしい感じがする。昔の知り合いも懐かしくなる。郵便物で指を切っても鈍感でいられる。