もったいぶるほどの傘ではない

「彼女いるの?」
「好きな子はいます」
「アイドルとか?」
などと冗談半分で言ったところ
「好きな子がたまたまアイドルだっただけです」
と、やぶ蛇をつついたような答えが返ってきた。
似たようなことを訊かれたときに、ややこしいことを言ってしまうのはもうやめにしたい。他人に指摘してもらえることがあるだけ、まだいい。

氷を削ることもしないバーへ行く価値があるかといえばまあまあビミョーだが、自分を愛してくれる誰かに出会える可能性はある。
——という下心から、明らかに飲酒量のキャパシティを超えた状態でも足を向かわせてしまったが、店主の女は初めてのオレにかなり気のない返事などをくれた。こういう場合はオレが何かに試しに来たと思っているに違いないのだが、それなのに……帰ったあともグチャグチャで、そういうときに送ったメッセージの内容を翌日「覚えてる?」などと言われてしまう。ある程度は記憶にあるのに、目も当てにくい内容だった。相手の分別をわきまえていただけましだった。