南風月のエッセイ その3

久方ぶりの入院生活が始まった。
悪くないな。足が不自由だった前回に比べればずっと快適だ。綺麗なコンビニだってあるし、あまつさえスターバックスコーヒーだってある。食事だって美味い。しっかりとしたチャーシューの載った冷やし中華なんて、そんなもの初めて食べたぞ。
精神的にはすぐにでも退院できるほどだ。しかし体の中身はそうでもないらしく、もう数日続きそうである。

ここでは退屈以外にほとんど不満がないが、僕は生活が保障されているような勤務形態ではない。つまり休むだけツケが来るわけであって、それに入院費だってきっと安くはない。本格的な手術をした前回に比べればずっとマシだろうが、かなり財布を圧迫するだろう。困った。骨折した3年前に比べて大人になったのはほんの多少の蓄えができたことだが、それを崩すことでなんとかするしかない。まあそう括ってしまうと気分は少しだけ軽くなるな。むしろ前向きに行くしかないのである。また貯めればいいのだ。

口内の膿を出した切り口の穴にガーゼを詰める処置がある。これを毎日取り替えているが、これが痛く、辛いのだ。想像はできるだろう。
はあ、とため息を吐くと、処置が始まり、ピンセットのような器具をもってガーゼが押し込まれていく。女の先生だが、容赦はない。
「あと半分ですよ」
まだ半分もあるのかと思いながら、あがっ、あぐっ、などと喘ぐ。足の爪先はじたばたしてしまう。そして処置が終わる頃には涙目になっている。
「先生、悲しくなくても涙は出るよ」
冗談を言うことができるほど回復したので「当直が終わったら一緒にスタバへ行きましょう」と誘ってみるも、軽くあしらわれてしまったな。