ハッピーか? パート2

「忘れ物はないっすか」
そう言われてもマトモな判断ができる自信がない。俺はひとかけらの正気を掴みながら、入れ忘れたものをカバンに詰め、大きくため息を吐いてからシリンダー錠の数字を廻した。
きっと大丈夫だと思うほかない。そしてこれからバスの出発する場所まで歩いていかなければならないのが恐ろしくてしょうがなかった。俺は車にはねられて、痛みも忘れたまま死んでしまうんじゃないだろうか。
「じゃあぼちぼち行きましょう」
憂鬱だ。ゆっくりと宿から歩き出す。しっかりと、先頭を見失わないよう、そして『普通を装って』歩く。時折自分を見失う。先頭が角を曲がったのを確認して、自分もしっかりと曲がる。

案内を受けるために旅行代理店を訪れると、誰かが椅子を人数分カタカタと並べ始める。
同じく虹の向こう側へ行った友人が「いや、あの、今ここにいるのは6人っすけど、あとでもう1人来ますんで」と言ったのを聞くなり「はぁ?何ワケのわからないこと言ってんだよ?ヤバイだろ」と思いつつ人数を何度も確認したがやはり6人しかいない。「そういう手はずだったっけ?」と余計に混乱してしまう。そうして「どうもー」と『あとのもう1人』がやってきたところで説明が始まるが、正気を保つのに精一杯でマトモに聞けるわけがない。気がつくと説明は終了しており、俺はドアの外に立っていくつかの書類を握っている。
「なんですかコレ」
「全員分のチケットだよ」
「いやいやこんなもの俺が持ってたらマズイでしょ!」
自分がひどくヘンな声を出しているような気がして、やはりシャイな心地のまま恥ずかしくなってしまう。俺はほとんど口を開かなかった。

どういう道順を通ったのか記憶がない。なんらかの理由で留まっている集合場所へと着いたとき、「そろそろ抜けてきたでしょ」と言われて「ああ、確かにそんな気がする!」と安心するが、そのまま地面を見つめてボーッとしている自分に気づく。往来の音楽は相変わらず耳障りだ。

どういう道順を通ったのか記憶がない。察するにここはバスの出発する場所なのだ。カラフルに彩られたバスのペイントを見ると、そこにはシスタープリンセスが描かれている。
「はー、こんなとこにもジャパニメーションが」
と感心していると、ハッと「いやそれは普通に考えて幻覚だろ」と気づいてもう一度確認するが、たしかにそこにはシスタープリンセスが描かれていた(今でも思う、あれは幻覚じゃなかったハズだ)。

どれくらいバスを待ったか。時間の感覚が早いのか遅いのかがわからない。横の友人の言動ひとつひとつが「ヤバイだろ」と思えて仕方なく、ヒヤヒヤしたり、「いや俺は大丈夫ですよ」という気持ちから大人しくしようとして黙ってしまう。
「あ」
とおぼろげに意識が戻っていくのを感じた。
「戻りましたよ!大丈夫です!」
そう言ってももいろクローバーのダンスをひょいひょいと踊ってみせたのは確かに奇妙であるが、これまでの振る舞いからすればずっと健やかで素面的である。