沈んでみせるか

「タイに来てどれくらいになるんですか?」
「今日来たばかりです。右も左もわからないんですよ」
確かに海外へ来てまで日本人とつるむのはどうかというギモンはあるし、かつて自分もそうはなるまいと思っていたが、実際言語の通じないところにポンと放り込まれてごらんなさいよ、結構不安なんですという言い訳はいくらでもできる。

そうして友だちが何人かできた。
彼らはみんな年下ではあるが、俺のように「タイでひと月ほどぷらぷら」という者は一人もおらず、「今まで東南アジア諸国を巡ってきました。数日後にはインドです」というような人がホトンドであって、やれ「世界一周します」だったり「世界各国の女を抱くのが目標です。今80人」という未成年までいた。便宜的に言って『俺なんかよりもよっぽどスゴい人たちばかり』なのである。むしろ「タイに来ただけです」という人は俺以外見たことがなく、情けなく思えてくる(みんなよくお金があるな??)。

その友だちを連れ立って、カオサン通りへ出かけた。実は今まで周りをウロウロしていただけで、カオサン通りへは到達していなかったのだと気づく。
屋台やパブ、ゲストハウス、Tシャツ屋やエスニックな雑貨屋がギッチギチに並んでいる。人種の層は店員以外は欧米人ばかり。竹下通りや新京極がイメージしやすい。あれをもっとごっちゃごちゃにした感じ。

夜には彼らと一番大きなクラブ(語尾上げ)に出かけた。その名も『The Club』。そのまんまである。
日本でもクラブ(語尾上げ)に興味はあったが、いろんな事情で踏み出せずにいた。タイでクラブ(語尾上げ)デビューである。
料金はドリンクを一杯注文するだけでい。それもビールが190バーツとめちゃくちゃ安い。じゃあ内装がしょぼいかというとそういうわけでもないし、天井が高いので開放感があり、海の中にいるような感じが楽しめる。

当然踊り狂った。3時間ほどぶっ通しで踊り続ければそりゃあバテてくる。お酒も入っていたし、心地良い疲労感のまま隅の座席に腰掛けると、俺はそのまま眠りに落ちた。音楽は鳴り続けている。