おわい、タイへ行く

感慨もなく、タイへの到着は案外アッサリしていた。
空港から外へ出れば大きな道路ばかりで何も見えない。予定としては中心街まで歩いて行くつもりだったのに、これではまるきり検討がつかない。ということでタクシーに乗ることにした。乗り方はガイドブックで勉強しておいた。
「ワットプラケーオ(寺院名)」
「は?」
ーーという訝しげな目による洗礼を浴びたあと、もうひとつ笑われて、もう一度伝えると「来いよ」と車に手招きされる。

タクシーは高速道路を走る。これはとても歩いていける距離ではなかったなと思う。
手元には空港で1,000円を両替した375バーツだけがある。高速料金もこちらが負担しなければならず、思いのほか距離も増えていき、「あれ?ひょっとしてこれは手持ちのバーツでは足りないんじゃないか?」と不安になった。そして「あ、これはダメだ。足りない」と気づく。

「ソーリー、実は手元にあと300バーツしかないんです。支払いはこのサウザンド円でも構いませんか」
とかなり適当な英語でそう伝え、1,000円札と両替した際にもらった明細書を一緒に渡す。これならこの1,000円は少なくとも375バーツの価値があると解るはずだ。彼は「はぁ?何を言ってるんだコイツは?勘弁してくれよ」という顔をした。そりゃあそうだろう。

取り敢えず目的に到着する。最終的に高速料金を除いた350バーツを支払わなければならず、やはり手持ちでは足りなかった。彼はもう一度1,000円と明細書をあらためて、「まぁ、いいだろう」といった具合に俺を降ろすと走り去った。空港の両替はレートが良くない(らしい)ので、彼はいくらか得をしたことになるだろうが、やむを得まい。その1,000円以外には1万円札しか持っておらず、ヘタしたらかなり面倒なことになるところであった。