黒い丘

友人とぷらりと寄った呑み屋で「ノッカンドーをストレート」と言えば
「マスターリザーブのものしかありませんがよろしいですか」
なんて返ってくる。そこの店は「そういう俗なとこじゃねえから品書きもねえ、まして値段なんざ」ってな佇まいであって、これの値段はサッパリわからない。そりゃあ俺にだって見栄ってもんがあるからして「いくらだい」なんて返せるわけもなく「ああ、いいよ」と言って出てきたのは21年寝かせた上等なもんだ。『こいくち』。ぐいっとやった。
「おお、こいつは頭が棒っきれみてえに『ぼうっ』としやがるな」
なんてしょうもないことを言って、そいつをチビチビとようやく飲み干した頃には友人はカクテルを2杯やりおえた。
「おうっ」
今度は正々堂々「いくらだい」と訊けば「6,500円です」ときたもんだ。ははあ、とさすがこう「品書きもねえ、まして値段なんざ」って高級寿司屋のような店はきっとこんな値段を書けば「馬鹿野郎」なんてクレームがくるからに違えねえ、と、泣く泣く財布からお金を出した。

「多分あの値段の半分はお前のだと思う」
通販で調べてみるとボトルで7,000円。