ブリーディング・ハート

筆者Bの場合

「お待たせしました」
彼女は店員に会釈をすると、その泡が可愛くデコレートされたコーヒー(僕はそれの正式名称を知らない)の写真を撮って、画面を見つめて微笑んだ。
「それでね」
彼女がコーヒーに砂糖を入れてスプーンでかき混ぜる。描かれた熊の顔がみるみる歪んでいくのを僕は見ていたが、彼女の口が開くのに気づくと顔を上げた。
「私、思ったんだけど、ミクシィが廃れてフェイスブックが流行りだしたのって、世間に愛が浸透してきたからじゃないかって」
「へえ。そうかな」
「私はそう思うけど」
と言って、視線をコーヒーに落とし、スプーンをくるくると回す。
「ところで、ニュース見た?ミサイルの映像、キレイだったよね」
彼女は無視してスプーン遊びを続ける。僕たちのテラス席から空を仰ぐと、そこには晴天ながら、一定の形をもった小さな雲がいくつか見える。
「あれは飛行機雲かな。でも、あんなに飛行機が高く飛ぶもんなのかね?」
「知らない」
彼女は弄んでいたスプーンをカチャンと置いて、顔も上げずに言った。
「やっぱりさあ、前にも言ったけど、T君からは愛が感じられない」
「それ、よくわかんないよ。君がシスターだから?それともコドモだからってこと?」
テーブルにストロベリー・パイが運ばれてきた。