背後から

とても不埒な夢を見たような気がして、ぼんやりしながら昨晩の事を思い出していた。

家に帰った時には既に疲労困憊であった。カバンとヘルメットを置いてため息をつく。特にそんな気分でも無かったのに、先日買った菊水(辛口)を口に含んでみたがなんともいえない味に吐き出そうかと思った。冷蔵庫にあったキムチで口を誤魔化そうと試みたが、それも本当に好みじゃない味付けだったためにまるで血で血を洗うかのような不毛の具合だった。ウイスキーで口直しも考えたが、やはり本当は飲酒をする気分じゃなかった。

翌朝、母の操る掃除機の音に起こされ、逃げるように二階へ上がった。
しばらく呆然と倉庫のように散らかった部屋を眺めると、昨晩の惨めさを思い出すようにリストカットの衝動が15年ぶりに湧いてきた。引き出しを開ければ当時のカッターナイフがそのまま出てきて、若干こそばゆい気分のままカチカチと切っ先を腕に当てると、電話のベルによって現実へ戻された。

母がわたしを呼んでいる。
しぶしぶ階段を降りると、なんでもカード会社からの電話だったようで、先月分の引き落としができなかった、つまり滞納してしまったという事で年甲斐もなく咎められた。
もう一度二階に上がり改めて手首を切り刻むってのもなんだかアホらしいと感じ、掃除機が騒がしいのも構わず布団へ横になった。そういえばカッターナイフが出しっぱなしだったと思い出したが、面倒になってそのまままどろみ、眠った。